人生の備忘録

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【書評】「内容で芥川賞をもぎ取ったと納得できる作品」火花 / 又吉直樹

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当時のことはあまり覚えてませんが、又吉さんは自信の名前を隠して当該作品を応募されたとかなんとか。

 

でも発行部数やら芥川賞はぶっちゃけ「ピース又吉」としてのネームバリューが少なからず影響していると思うんですよね。

 

ただ、その「ピース又吉」としてのネームバリューっていうのは他ならぬ又吉さん(もしくは綾部さんとのコンビ)で作り上げたもので、利用するのが卑怯ってのは筋違いも甚だしいとも感じます。

 

まあ甘い蜜を吸おうとした出版業界に批判が集まるのは自業自得かと思いますが。

 

 

 

いずれにせよ、そういう背景を薄っすらと感じていので、芥川賞という名に見合った作品ではないんじゃないかなーと決めつけていたんですね、旅度々は(文庫本しか購入しない主義ということもありますけども)。

 

そう考えて、特に読む意欲は無かったんですけども、先日姉の家に寄った際に、本だなにハードカバーの火花が置いてあるのが目に入りまして。当初は特に気に欠けず(他の本に気を取られて)帰宅したんですけどね。

 

ところがつい先週、ふらっと立ち寄った本屋で偶々、火花の文庫版が目についたわけですよ。文庫版だし、薄いし、中身を流し読みした感じ、辟易するような匂いもしなかったので、つい購入(冒頭の「大地を震わす和太鼓の律動に~」の表現は婉曲かつ堅苦しくて若干手放そうかなと迷いましたが笑)。

 

 

 

 

 

 

 

…という訳で読ませて頂きました。前置きが長くなりましたが、感想としてシンプルに言うならば

 

 

「普通に面白い」

 

 

てな感じです。前述したように導入部分は入りづらさはありますが、その後のストーリーは流れに乗る様に読み込めました。

 

登場人物は「お笑い芸人」という肩書ですが、本作品で表しているのは、「お笑い芸人」としての生き様というよりは、「人」としての生き様だということは紛れもないと思われます。

 

確固たる自分を持ち、信念に従って人生を歩んでいる神谷と、その神谷の生き様に憧れて弟子となりながらも、神谷を知るごとに自分の矮小さを知っていく徳永。

 

神谷の信念というか、”芯”を感じたのは個人的に以下の2シーン。

 

一つ目は、吉祥寺の井の頭公園にて。

珍しい楽器を演奏している男を前に立ち止まるも、男は注目されることを恐れて演奏を止めた。

で、この一言。

 

 

「ちゃんと、やれや!」

それに対する男の反応、返答に対して、

「そういうのってなんや? なんか俺、変な奴みたいになってんのかな?」

 

 

結局、演奏を始めて人が集まるにつれ、男は熱を帯びて演奏し続ける。

大勢が注目するのは良くて、少数に奇異な目で見られるのは嫌だっていう、典型的な日本人タイプだと思うんですよね。

 

海外の人って、なんとなく自分が表現することに抵抗がない人が多い印象です(色々な国々をプラプラと旅していた自分の勝手な印象ですが)。

 

もちろん、日本人でもそういった集団心理に陥らずに、淡々と自分の道を突き進む人がいますが、少数だと思うんですよね。自分も憧れますが。

 

 

二つ目のシーンは、同じく井の頭公園にて、泣き止まない赤ん坊をあやすシーン。

 

 

徳永が

「いないいないばあ!」

と、一般的なあやしかたをするのに対し、

 

神谷は

「尼さんの右目に止まる蝿二匹」

という意味不明な蝿川柳を何の疑いもなく披露する。

 

 

例え受けてがどんな相手でも、自分が面白いと思ったことを表現する、といった神谷の”芯”を表している。

けれども、同時に盲目的であり、幅の狭さを感じる。自分の世界が全て、という傲慢さも。

 

徳永はそういった神谷の二律背反性を一番近くで見続け、自分の生き様を模索していったのだろう。

 

 

個人的に、徳永が神谷の伝記を書く、という設定に意味はあったのだろうかと感じなくもない。

誰かその意義を見いだせている方がいらっしゃったら教えて下せえ…。

 

ちょっと長くなってしまいましたが、又吉直樹作「火花」の所感としてはこんなとこですね。ほんと、普通に面白く、かつ深い内容でした。

 

本日(11月23日)から映画も公開されているようなので、週末に見に行って見ようと思います。

 

 

では、最後は個人的に本作で一番好きな表現で締めたいと思います。

 

 

最近急激に寒くなって参りましたが、ユニクロ様のヒートテックとウルトラライトダウンがあれば、「大丈文庫」